「視力0.1」は悪い状態? 見え方と生活への影響、矯正方法を紹介
眼科医 村上智貴 先生

監修
眼科医 村上智貴 先生

大分県にある、村上眼科 院長。日本眼科学会認定 眼科専門医。一般眼科診療にはじまり、白内障日帰り手術や糖尿病網膜症レーザー治療、ドライアイ治療、IPLなど幅広く行っている。老若男女問わず親切な検査や診療、説明を行っており、目について少しでも気になることは気軽に相談できるように日々、患者さんと向き合っている。

視力検査で0.1と測定されたら、それがどのくらい悪い状態なのか、見え方はどの程度なのか?視力が低下すると、心配になりますよね……。視力0.1の定義をはじめ、視力を矯正する方法の種類やそれぞれの特徴などを知り、視力の矯正方法を検討しましょう。

視力0.1とはどんな状態?

ランドルト環の視力検査表
視力0.1とは、視力検査でよく用いられるアルファベットのCのような形をしたランドルト環(C)が並んでいる視力表から5メートル離れた位置で、一番上にあるランドルト環の切れ目がかろうじて判別できる状態を指します。

視力0.1のままでは日常生活に支障が出やすくなりますが、裸眼視力が0.1以下でも、矯正視力で1.0あれば良好と言え、心配しすぎる必要はありません。
  • 裸眼視力:メガネやコンタクトなど矯正器具を用いずにそのまま測定した視力
  • 矯正視力:メガネやコンタクトなど矯正器具で矯正して測定した視力
一方、メガネやコンタクトなどの度数を変えても矯正視力が1.0に満たない場合は、なんらかの目の病気が疑われます。

視力0.1の具体的な見え方

ぼやけた視界とメガネをかけた視界
先述の通り視力0.1の人は、視力検査表の一番上のランドルト環の切れ目が5メートル離れた位置からなんとかわかる状態です。

文部科学省の視力判定区分によると、視力検査での0.3未満は教室の前の席でも黒板の文字が十分読めない状態であると言われています。

教室の最前列から黒板までおおむね2メートルから3メートルくらい。視力0.1となれば、例えば車を挟んで向かい合ったときに、相手の顔がぼやけて見えにくい程度の状態だと考えられます。

視力0.1は日常生活に支障が出やすく、とくに車や自転車の運転はとても危険です。車の普通自動車第一種運転免許を取得するには、裸眼視力もしくは矯正視力で以下の基準を満たす必要があります。

視力の合格基準(普通自動車第一種運転免許)
  • 両目で視力0.7以上、かつ片目でそれぞれ視力0.3以上ある
  • 片目が視力0.3に満たない、もしくは片目が見えない場合は、他眼の視野が左右150度以上で視力が0.7以上ある

視力0.1以下の場合の測定方法

5メートル視力検査表の一番上のランドルト環の直径と切れ目の幅
ランドルト環(C)の視力表は、5メートル離れた位置からでは視力0.1までしか測定できません。もし一番上の切れ目がわからない場合には、視力測定を受けている方が見える位置まで近づいたり、逆に視能訓練士(検査者)が0.1の指標の大きさのランドルト環(C)が記載された紙を持って視力測定を受けている方に近づいて、見える距離を測ることで視力の測定が可能です。
距離 5m 4m 3m 2m 1m 50cm
視力 0.1 0.08 0.06 0.04 0.02 0.01
スクロールできます

視力0.1の割合は不明・1.0未満は増加

スマホで調べながら宿題をする子ども
人口に対する視力0.1以下の人の割合を調べてみましたが、全世代を対象とした国の調査はないようです(2024年3月時点)。

しかし文部科学省が公表した学校保健統計*によると、裸眼視力1.0未満の子どもの割合は、増加の一途をたどっています。小学校では3割を超えて、中学校では約6割、高等学校では約7割弱と報告。こうした子どもの視力低下が進んでいる背景には、パソコンやスマートフォン、タブレット端末の長時間使用も影響していると考えられます。

*参考:文部科学省. 令和5年度学校保健統計 (学校保健統計調査の結果)確定値.令和6年11月27日

なお見え方の種類には近視・遠視・乱視などがありますが、日本人をはじめアジア人に多いのは近視です。

近視とは

近視とは、角膜や水晶体での光の屈折がうまくいかず、網膜の手前で焦点が結ばれてしまい、近くの物を見るときはピントが合ってはっきり見えるのに距離がある遠くの物を見るときはうまくピントが合わずにぼやけて見える状態です。

視力の仕組み

人が物を見るときは、まず目から入る光が角膜や水晶体(レンズの役割をしている組織)で屈折し、この屈折した光の焦点が目の奥にある網膜上でぴったり結ばれることで、物がはっきりと見えます。
近視の目の断面図(イメージ)
遠視の目の断面図(イメージ)
近視の場合、眼軸長が長くなったり、角膜や水晶体の屈折力が増加したりすることで、光の屈折がうまくいかずに網膜の手前で焦点が結ばれます。(反対に遠視の場合は、網膜の後ろで焦点が結ばれます。)

屈折は毛様体筋の働きで水晶体の厚みを変化させる「調節」を行うことで刻々と変化します。若い間は調節の働きが大きいので、裸眼視力は測るたびに多少変化します。歳をとって水晶体が硬くなり、調節量が少なくなって近くが見えにくくなる現象が老眼として知られています。

近くを長く見すぎたり、ストレスや寝不足などで自律神経に影響があると調節が一時的に悪化して裸眼視力は低下します。近視が「治る」と言う現象はこの調節力低下が改善することで起きるもので、軸性・屈折性の近視は治りませんので「矯正」するしか遠方を見る方法はありません

近視の度合いと屈折の関係

近視の度合いは調節力によって変化する裸眼視力ではなく、屈折度数(角膜や水晶体に光を通したときの屈折度合い)で表現されます。網膜より手前で結ばれる近視はマイナス、後ろで結ばれる遠視はプラスで表します。屈折度の単位はD(ジオプトリー)で、焦点が網膜で結ばれる「正視」と呼ばれる状態は0Dです。

物を見たときに焦点が合う最も遠い距離が1.0mの状態が-1.0D、以下同様に40cmの状態が-2.5D、33cmの状態が-3.0D、20cmの状態が-5.0Dといった数字になります。
-6.0Dよりも強い近視を強度近視と呼びますが、網膜剥離や緑内障の発症頻度が上がることが知られています。

視力の矯正方法

メガネとコンタクト
視力を矯正する方法には、メガネやコンタクトをはじめ、レーシック(LASIK)、有水晶体眼内レンズ(ICL)などがあげられます。どの方法にもメリット・デメリットがあるため、ライフスタイルや予算なども考慮して、自分に合った方法を検討しましょう。

メガネ

メガネはレンズが目玉に触れないため、安全性が高いのがメリットです。手軽にかけはずしができ、近視はもちろん遠視や乱視、老眼などのさまざまな矯正にも対応できます。デザインが多様化しているので、おしゃれを兼ねて使用する楽しみもあるでしょう。

一方で、以下のようなデメリットもおさえておく必要があります。
  • 激しい運動をするときにずれやすい
  • フレームが視野を邪魔することがある
  • メガネをかける位置や目線の使い方によっては効果が低くなる

コンタクト

コンタクトは目の表面に直接乗せて使用するため、視野を邪魔することがありません。強い度数や左右差が強くても対応でき、裸眼と見た目が変わらないのもメリットです。

しかし素材がデリケートなため、装着方法やレンズケア(お手入れ方法)を誤ると、目の障害につながる恐があります。コンタクトは高度管理医療機器と呼ばれる、人体に対してリスクが高いとされている製品です。使用する際は眼科を受診し、自分の目に合ったものを使用しましょう。

コンタクトの種類や交換するサイクル、レンズケアなども、よく確認しておくことが大切です。

オルソケラトロジー

オルソケラトロジーは、寝ている間だけ特殊形状のハードコンタクトを装着し、角膜形状を変化させ、屈折異常を治療する視力矯正方法です。

日中は裸眼で過ごせるため、メガネ装着時のわずらわしさやコンタクト装着時の不快感(目のかわきや疲れなど)から解放されるのがメリットで、ラグビーやレスリングなどのように接触圧迫が強くてコンタクトが使用しにくいスポーツをする人の矯正方法としても知られています。

特殊なコンタクトの装着を中止すれば、角膜形状は約2週間でほぼ元の形に戻ります。
デメリットとしては、主に以下の点があげられます。
  • 強い度数に対応できない
  • 治療費が高額である
  • 治療開始直後は1週間ほど視力変動がある(予備のメガネが作製しにくい)
  • 治療を休むと視力が下がるので、修学旅行などの夜にも使用する必要がある
目の病気がなく、軽度から中等度(-4.0Dまで)の近視、または乱視度数が-1.5D以下の場合が治療対象とされています。一般的なコンタクトと同様に、装着方法やレンズケアを正しく理解する必要もあります。

小児期にオルソケラトロジーで矯正していると近視進行を遅らせることが知られてから、使用する人が近年増えていますが、特に小児においては適切な装着を行うために保護者の徹底した管理と協力が必須です。
オルソケラトロジーで視力を矯正するしくみ

レーシック(LASIK)

レーシックは、角膜の上層部にレーザーを用いて角膜の表層部位にフラップと言う蓋のようなものを作製した後に、それをめくって角膜実質を露出させ、そこにレーザーを照射して角膜実質の一部を切除して屈折力を変化させて近視や遠視を0Dに近づけ、屈折異常を治療する視力矯正手術です。

フラップはレーザー照射後には元に戻し、角膜の表面は術後すぐに元に戻ることから、手術直後から視力が改善する場合がほとんどです。また手術は点眼による局所麻酔で行い、数分程度で終了するもので、術後の痛みが少ないのが特徴です。
レーシック(LASIK)手術のイメージ図説
原則18歳以上で軽度~中等度の近視、遠視、乱視の場合が治療対象になりますが、手術をしても視力が元に戻る可能性があり、また合併症のリスクもゼロではありません。
主な合併症としては以下があげられます。
  • ドライアイ(乾性角膜炎、涙液減少症)
  • グレア・ハロー(光がにじんで見える現象)
  • 複視(物が二重に見える現象)
  • 感染 など
また合併症のリスクに加え、角膜が薄い方や円錐角膜の方、遺伝性の角膜変性症の方など、なかには手術を受けられないケースもあるため、手術が可能かどうかは眼科を受診し、相談が必要です。また、将来白内障手術を受ける際に、術後の屈折予測値がバラつきやすく屈折ずれを起こす心配があります。

有水晶体眼内レンズ(ICL)

ICLは「眼内コンタクトレンズ」とも呼ばれる、後房(虹彩の後ろと水晶体の間)にレンズを挿入して屈折を矯正すると言う手術です。術後近視に戻りにくく、必要となればレンズが取り出せるのが大きな特徴です。

高額ですがレーシックに替わる技術として普及してきています。世界全体では累計300万件以上の手術実績があると言われており、日本でもICLを受ける人が増加しています。中等度~強度の近視、遠視、乱視の場合が治療対象であり、手術は点眼による局所麻酔で行います。数分程度で終了し、手術中の痛みはほとんどありません。
有水晶体眼内レンズ(ICL)のイメージ図説
ただしICLにも主な合併症としては以下があげられます。
  • 白内障
  • 一過性眼圧上昇
  • 緑内障
  • グレア・ハロー(光がにじんで見える現象) など
白内障は中央に穴の空いたhole ICLが使われるようになって、発生頻度が大きく下がりました。

自分に合った方法で適切に視力の矯正を

運転する女性
裸眼視力0.1と言う数値を必要以上に心配することはありません。とは言え、自転車や車の運転は危険ですし、遠くの物が見えにくく不便を感じるシーンが増えます。メガネやコンタクトなど自分に合った方法で、適切に視力を矯正しましょう。
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